独立=一人で働く、ではない新しい働き方の一つがシェアオフィスだ。
フリーになったり、ベンチャーを始めたばかりの人にとって、事務所を構えるというのは手痛い出費。一般的にはミニマムなワンルームマンションの一室を借りたり、自宅の片隅でひっそりとワークスペースを確保するというのが多いだろう。しかし、そんな風にとってつけた空間では、自慢のオフィスとは言い難く、お客様を招くには恥ずかしかったり、心地よく仕事をするのは難しかったりする。
そんな人たちが集まってオフィスを共有するのがシェアオフィス。今回取材に行ってきたのは、福岡の中心・天神からほんの2kmの距離にある緑のオアシス"桜坂"でシェアオフィスを構えている設計事務所「マツダグミ」の事務所だ。
築25年の内装もボロボロだった賃貸マンションの一室を改装し、カッコイイ接客スペースとオフィスには贅沢なほどのキッチンやミーティングスペースを共有し、4社5名のクリエーターが個別ブースを使用するオフィスを作り上げた。それも、シェアするメリットにより、各自はそこらのワンルームマンションを借りるよりもずっと安い金額で入居できているのだ。
「桜坂は南公園の緑もあるし、丘隆地なので眺望も良い。将来性もあると思った」とマツダグミ代表の松田さん。その中でも一際立地が良く、最上階角部屋で緑眺望の物件を見つけたときは、ポテンシャルの高い素材に出会えた喜びを感じたとのことだが、オーナーとの交渉や工事では苦労もしているのが現実。しかし、その結果自分たちだけの理想のオアシスを手に入れることができたのだ。
解体中の様子 段々キレイに仕上がっていくのが醍醐味。 せっかく見つけた素材を活かさない手はない。しかし、改装費が豊富にあるわけでもなかった。そこで、賃貸契約において改装するのにネックとなる「原状回復」を逆手に取った。つまり、現状のボロイ部屋を貸すとしたらオーナーは壁紙・床材等、最低限のリフォームだけは行わなくてはならない、それならばと、そのリフォームを行わない代わりに、その費用をシェアオフィスへのコンバージョン工事費用に充ててもらえるよう交渉したのだ。さらに、改装後の状態が「現状」である契約内容とした。驚くことに、賃料も据え置き(以前のまま)である。
考えてみれば、ごく当たり前のことなのかもしれない。古くなって借りて手がおらず困っている物件のオーナーと、良い素材を活かして改装したい若者。必要経費だった原状回復費を払って借り手がついたオーナーにとっては、将来的には生まれ変わった内装が残り、満足いく結果であるはずだ。また、約半分のコストを負担せずに思い通りの空間を手に入れたシェアオフィスのメンバー。お互いにハッピーなのだから言うことない。ただ、今までにないことを話し合うのに少しの時間がかかったということだろう。
現在はマツダグミを中心に、設計事務所、インテリアデザイナー、グラフィックデザイナーが入居しており、接客スペースの他、キッチン&ダイニング(ミーティングスペース)、コピー機等を共有している。
オフィスにしては贅沢なキッチンを備え付けたので、夜な夜な人を集めてパーティを開くこともしばしば。シェアだからこそ持てる広い空間で、一人では味わえない楽しさも感じられる。
各自の机はブース形式になっており、ゆるやかな空間の仕切りでつながっている。「違った分野のデザイナー、クリエーターが集まっているので、持ち込まれたプロジェクトをシェアメンバーで共同で取り組むこともできる。その際には、すぐ隣にいるので打ち合わせもスムーズ。一人でやっていては受けられない大きな仕事も舞い込んでくる」とマツダグミさん。
最近「東京R不動産」で1ブース募集していたのを見つけて、入居したグラフィックデザイナーの前田さんは「周りで人が動いているのが見えるので、一人で仕事しているよりもモチベーションが上がるし、居心地がいい」とのことだ。
一人のスペースはこれくらい。ゆるやかなテリトリー。 机いっぱいに広げたい時は共用のミーティングスペースで。 このシェアオフィスのケースは、古い物件の空室に悩むオーナーにとっては新しくて価値のある試みかもしれない。
古くても窓から自然を感じられる眺めがあったり、どこか心地よい潜在能力を持った物件ならば、改装して好きな空間を作りたい若者はたくさんいるということ。
しかし、そこでネックになる原状回復や改装費について、もっとシンプルに考えてみればよいのではないだろうか。
中途半端なリフォーム工事を行ってしまうのはモッタイナイ。
そんなリスクを犯してしまう前に、少し彼らのような若者の声を聞いてみるのも悪くないだろう。
ミーティングスペースは夜になると人が集まるダイニングに。 シェアオフィスPLAN