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2014.12.10
【連載】糸島移住者インタビュー

vol.3 時代を切り開く「いとしまシェアハウス」

藤井優子
 

棚田がつくりだす縞模様が美しい山間の集落。豊かな湧き水が大地を潤し、満天の星が夜空に瞬く、そんな大自然の中に「いとしまシェアハウス」はあります。オーナーは、畠山千春さんと志田浩一さん。彼女たちも、2011年の東日本大震災後に、福岡へ移住してきました。

畠山さんを魅了した近所の棚田。
継続していける暮らしを、自分の手でつくる

──そもそも、なぜ糸島を移住先として選んだのでしょうか。

畠山:糸島のいいところは、海があって山があって川もあること。自然が豊かで食べ物がすぐ手に入ること。それから、すでに移住者のコミュニティーがあったこと。実は、福岡に来て、移住先として最初に考えていたのは、別の地域だったんです。でも問い合わせてみたら、少子化対策で子どものいる家庭を優先的に受け入れたいという回答が返ってきて。その点、糸島は移住者も多く迎え入れてくれる環境がありました。でも、不動産屋さんに出ている物件は少なくて、すぐには越してこられなかったので、福岡市内に住みながら週末は糸島で物件探しという生活をしばらく続けましたね。

「いとしまシェアハウス」。築70〜80年の古民家を、自分たちの手で改装している。

──糸島で物件を見つけるのは難しいと聞きますが、この物件はどのようにして出会ったんですか。

畠山:今の家を見つけたのは偶然で、ドライブ途中に「空き家」という張り紙が貼っているのを見つけたのがきっかけです。ここは、すぐそばに綺麗な棚田があって、海も近くて……すぐに気に入りました。1年ぐらい糸島に通って、やっと見つかったのでとても嬉しかったですね。ただ、とても古い家だったので、現状引き渡しという条件で。そのかわり敷金・礼金をただにしてくれて、自由に改修していいという許可ももらいました。改修しながら住むということをやってみたかったので、私たちにとっては願ったりかなったりの条件でした。

シェアハウスがある集落は石垣があったり、湧水が流れたりといい雰囲気。

──シェアハウスを始めようと思ったきっかけは?

畠山:私は、実家を出てからずっとシェアハウスに住んでいるんです。福岡に来るまでもいろいろなところを転々としてきましたが、いつも誰かがつくった場所に住んでいたので、いつかは自分でそういう場所を運営する側になってみたいなと思っていました。本格的に始めようと思ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけ。その時私は横浜にいたんですが、コンビニからは物が消え、水の買い占めが起こり、それまで当たり前だと思っていた日常が、一変して当たり前じゃなくなるという経験をしました。そのとき、どんなことが起こっても継続していける暮らしを、自分の手でつくっていかなくちゃ、と切実に思ったんです。その後、勤めていた会社の移転で福岡に越してきたのですが、広くてたくさん人が住める今の家も見つかって、2013年の5月からシェアハウスの運営を始めました。

食べ物・仕事・エネルギーを自給する
「いとしまシェアハウス」を運営している畠山さん。この日は稲刈りでした。

──シェアハウスでの暮らしはどうですか。

畠山:このシェアハウスのテーマは、食べ物と仕事とエネルギーを自給すること。食べ物は、地域の方に教わりながら作物を育てたり、山へ狩猟に行ったり。仕事は、シェアメイトそれぞれに違いますが、週末にはマルシェやワークショップなどのイベントを一緒に開催し、各自が生活の足しにしています。エネルギーに関してはこれから取り組んでいく部分が多いですが、太陽光発電を取り入れることから始めました。手づくりの発電キットで細々と発電していますが、パソコンと携帯電話くらいは充電できるんですよ。

シェアハウスでは、マルシェやライブなど様々なイベントが行われています。

畠山:これからは「サステナブルな暮らしを自分の手でつくる」という暮らし方がもっと増えてくるんじゃないかと思っているんです。私たちの世代は、物心ついたころにはすでにバブルがはじけていて景気のいい時代を知りません。だから豊かな暮らしは自分たちで作らなくちゃと、みんなが思い始めていると思うんですよね。「豊かさのかたち」はそれぞれですが、私たちの暮らしがそのプロトタイプのひとつになれればと。

──実際に、都市部から田舎へ移住して、生活に変化は?

畠山:生活費は、都市部に住んでいるころに比べて格段に下がりました。シェアハウスだということもありますが、家賃は、市内で一人暮らしをする場合の半額もしくはそれ以下。食費は、畑で採れたものやご近所さんからのおすそわけのおかげで、1人当たり月5000円程度とだいぶ助かっています。湧水を使っているので、水道代もかかりません。なのでお金に対する価値観は変わりつつあって、たまに外食をすると値段に驚きます(笑)。生活にコストがかからない分、暮らしを維持するためだけに働かなくても良いので、働き方も変わりましたね。シェアメイトも、週5日勤務するようなスタイルの人はあまりいません。やっぱり、せっかく田舎に移住してもフルタイムで市内に働きに出てしまうと、若い才能やお金、時間が全部都市部に吸い取られちゃうんですよね。それはすごくもったいないなって。だからこそ、私たちが住んでいるこの場所で仕事をつくり出していくということを大切にしたくて。空いた自由な時間を使って、自分の持っている技術を仕事にしていく練習ができればと思っています。今は畑で作物の世話をしたり家を改修したり……。いずれは、私たちの暮らし方の実験自体がノウハウやコンテンツになって、それで生計をたてられればと思っています。

ご近所さんに田んぼを借りて、農業も。写真は稲刈り後の稲帆を干す作業。干す台も竹で自作。
7人のシェアメイトは個性派揃い

──シェアハウスのメンバーは、どんな人たちが集まっているのでしょうか。

畠山:現在のシェアメイトは7人。みんな、それぞれ特技をもった個性豊かなメンバーです。料理人に写真家、着付け師、音楽家も迎えました。自給がテーマですが、ひとりで全部できるようにというよりは、信頼できる仲間で力を合わせて、足りないところを補い合えるようなスタイルが理想ですね。今はまさにその理想形で、パズルのピースがぴたっとはまっているような居心地の良さがあります。自分にしかできないことを一人一人が精いっぱいやれば、それが合わさっていい動きになる。偶発的な面白さがあるのもシェアハウスの魅力ですね。
7人の共通点は、食べることが好きなこと。せっかく同じ空間で暮らしているので、食事はできるだけみんなで取るようにしているのですが、全員食べることに貪欲なので、ごはんどきは戦いです。テーブルのあちらこちらから手が伸びて、毎回、気が付いたらお皿があっという間に空になっているような状態(笑)。こんな風に暮らしていると、ただ同じ家に住んでいる仲間というよりも、家族という表現のほうがしっくりきますね。

いとしまシェアハウスの7人のメンバー。この冬に3人の卒業が決まり、現在新しいメンバーを募集中。

──最後に、これから糸島へ移住を検討している人にアドバイスをお願いします。

畠山:糸島の中でも、私たちの住む旧二丈町のように小さな集落に住む場合は、地域の方々との関係づく作りがとても大切だと思います。私たちも越してくるときに「集落の一員になるくらいの意気込みで来てね」とアドバイスを受けました。私たちの場合は、オーナーさんの取り計らいで、引っ越してくる前に、地域のお花見の席であいさつをする機会をいただいて。そのあと実際に引っ越して来てからも、改めて一軒一軒あいさつに伺いました。それはすごく良かったと、後になって地域の方に言ってもらえましたね。
あとは、川ざらいや清掃、お宮の行事など、いわゆる「出ごと」に参加してコミュニケーションをとっています。地域の方々は本当にいい人たちで、日常のいろんな場面で助けてくれます。物干し竿やバイクをくれたり、おすそわけをいただいたり。稲をもらって持て余していたら、また別の方が田んぼを貸してくれるなんてこともありました。シェアハウスではいろんなイベントを開催しますし、人の出入りも多いですが、いつも見守っていてくれている感じがしますね。受け入れてもらえるように意識的に行動しましたが、実際は驚くほどのびのびと暮らせていますよ。そもそもこの美しい棚田が今あるのも、地域の方々が代々守ってきてくれたからこそだと思うんです。この場所に住めることを感謝しつつ、地域の人たちに少しずつ恩返しできたらなと思います。


「いつかこのシェアハウスをコレクティブハウス(注)のようにしたい」と畠山さん。将来、シェアメイトが結婚して世帯を持っても、今と同じようにみんなで食卓を囲んだり、必要なものを分け合ったり、今のシェアハウスを中心に村づくりもしていきたいそうです。


(注…様々な人や世代が生活の一部を共有する、北欧で生まれた住居スタイルのこと。食堂やリビングなどを共有するが、台所や浴室、トイレなどは各住居にあるため、シェアハウスよりプライベートが確保されている。そのため、家族でも入居しやすいことが特徴。)

■今回お話を伺った方のプロフィール

畠山千春(28歳)/糸島移住歴1年半/仕事 シェアハウス運営、新米猟師、ライター/移住前に住んでいた場所 千葉県
※2014年12月現在

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