窓から緑が見える暮らしがしたい。
そんな理想をイメージしながら日々悶々とコンクリートに囲まれた暮らしをしている人って実はかなり多いのではないだろうか。
しかし、実は意外にも郊外に行かなくたって、緑あふれる暮らしはできるのだ。
「居場所作家」(世間一般で言うとインテリアデザイナー)の古庄和也さんは、インスピレーションを頼りに物件を探し続け、この家に出会った。
場所は大橋。大橋と言えば誰もがイメージするのは住宅街で、戸建住宅がずらっと並んでいる感じ。それに違わず、この築24年の家も一見すると、普通の古家のようであった。
しかし、たった一つ、この家にはポテンシャルとして眠っていることがあった。それは、「敷地が小さな森に面している」ということ。
どういうことかは追々説明するとして、古庄さんはすぐにこの建物付きの土地を手に入れ、ほぼ手作りで再生した。そして、この森の良さを皆さんに味わっていただきたいと、自宅の一部でカフェもオープン。その、「いきぬきどころ/きんど」にさっそくお邪魔してきた。
お隣は保全緑地
この家は森と隣り合っていた。面白いことに、森を囲んで建っている他の家は、森との間にフェンスを作ったり、塀を作ったりして生活と緑との関わりを人工的な直線で区切っているのだが、この家にはそんなものはない。
むしろ、「この森はうちの庭です」と言わんばかりに、庭と一体化させて使っている。土がむき出しの斜面からはいろいろな植物が顔をのぞかせ、森の中からは野鳥がやってくる。
これぞ本来の意味での自然との共生というやつでしょう。(ウラヤマシイ)
手作りで改装し、1階部分をカフェに
建物は2階建てのオーソドックスな住宅で、目の前に緑がある半面、なんとなく暗かった。そこで、1階部分の天井をぶち抜き、吹き抜け空間を作った。すると見違えるほどに明るくなり、空気が流れだしたという。
森からのメッセージを聞きながら、ゆっくりした時間を過ごしてもらいたい。そんな想いで1階にカフェ「いきぬきどころ/きんど」をオープンさせた。
ちなみに、お店の名前を訳すと、「息抜き処/金曜と土曜のみオープン」という感じになる。土があることによる心地いい温度(おんど)の違いを味わっていただきたいとのこと。
カフェといっても、天神や大名にできる新しいカフェとは全く違い、デザインや音楽を楽しむというより、森の中の家にちょっとお邪魔するような感覚。
木や葉っぱの揺れる音、絶妙に響き渡る風鈴の音を聞きながら飲むお茶は格別だ。
2階に上がるとバルコニー、そして吊り橋が
1階をカフェにしているため、2階の居住スペースとはうまく使い分けている。
今回は特別に2階にもお邪魔させていただいたのだが、本当にビックリ!あっぱれな職人技を発見してしまった。
森に向いて開かれたバルコニー、そしてその先にはなんと吊り橋がつけられていた。
恐る恐る森に向かって橋の上を歩いてみる。日頃体験することのないアドベンチャーな瞬間だ。
橋は森との境界ギリギリまで作られている。「もうちょっと伸ばしたら渡れますね」と聞くと、「あ、実はもうちょっと伸びます。」・・・・。
と、ここから先は諸事情により書けないが、表向きは庇として作ったこの吊り橋も、アイデア次第で森とのコミュニケーションツールになってしまうのだ。
そして屋上へ
バルコニー横に手作りした木製の階段を登っていくと、こんなにも開けた空間に解き放たれる。360度スコーンっと抜けた眺望と、すぐそばに感じる森の息吹。 前の持ち主はきっと屋上に上がるなんて想像すらしなかったのだろうが、古庄さんのアイデアで生まれ変わった屋上には、まるでずっと前からそうであったかのように似合う木のベンチが置いてある。
そして、ひとつだけ新築したのが、元々堀車庫の上のなにもないスペースに作った考房(工房)。
仕事場として使っている考房で古庄さんにうかがいました
「この考房だけは新しく作ったのですが、それ以外は元々あるものを活かして、徐々に手を加えてきました。
居場所作家という仕事の上でもいつも心掛けていますが、完璧なものを作る必要はないと思っています。
デザイナーが完璧なものを作っても、実際の使い手はそれをいじることも直すこともできなくなってしまう。
使い手、住み手が自分たちでだんだん手を加えていくのが一番味が出るんですよね。だからこそ、緑や土といった自然を近くに感じられる素材を探し求めました。人の手で自然に勝る長所を作りだすなんて難しいですからね。」
この椅子に座って、お茶を飲み、視界の先に広がる緑を眺めていると、本当に自然のありがたみを感じてしまう。
なにも田舎暮らしだけが自然と関わる方法ではないのだ。特に福岡は都心部でも緑が豊富な街。
街の中の森ひとつひとつに、自然を感じられる住居の可能性が眠っている。そう考えると家探しもより一層楽しくなりそうだ。
新しくできたオシャレな店でカッコよく飲んでみるのもいいけれど、本当はこんな風にリラックスできる家で気の合う仲間とバーベキューやパーティをする方が豊かだったりするのかもしれない。