博多でも天神でもない、福岡市西部の副都心「西新」の住宅街にオープンしたのが住宅・店舗などの設計施工を手掛ける建築事務所「Huset(フーセット)」。
「人見知りな平屋」と言うタイトルで募集していた物件で、その名の通り道路からは全く視認できない路地奥に建っていた。室内は古びた内装に使いにくい間取り、住居としてはなかなか借り手も付かない状況が続いていたのですが、そんなマイナス面が高じて「店舗・オフィスでの利用や改装も相談受けます!」と、思わぬ面白い条件がつく経緯となった。
改装前はこんな状態。室内も写真で見る以上にくたびれていました。 そんな折、独立に向けて事務所を探されていた中西さん・堀之内さんとの出会いが、この戸建を見事に生まれ変わらせることになります。
― ―お二人に物件を借りるまでの経緯をお聞きしました。
「もともとは、小さな倉庫を探していましたが、倉庫ってやっぱりそもそも大きいものなので、自分たちのイメージに合うサイズの倉庫が見つかりませんでした。あとは、簡単なモデルルーム機能も持たせたかったので、探しながらイメージを膨らませていくうちに倉庫だと設備工事と合わせて内装費用が掛かり過ぎると言うネックが出てきました。それからは、ビルの1階にあるようなテナントも見に行ったりはしましたが、何となくしっくりと来るものが無くて・・・。
この戸建は規模や条件もちょうど良かったし、ずっと気になって気になって(笑)。冷静になって考えてみると、不特定多数のお客さんを呼び込む業種やスタイルでもないので、住宅街であることは気にしませんでした。むしろ妙な引っ込み具合、この路地のようなアプローチの存在に惹かれたんです。オフィスの顔がちょっと不思議なアプローチなんて面白そうって。それに見えないことで、見える部分にだけ重点的に改装にメリハリを付けることができると言う部分もメリットに思えました。あとは感覚的にピンと来ました!」
改装中。築40余年、壁や天井を剥がすと想像以上に傷みもありました。 この改装には、2つのテーマがあった。ひとつはオフィス環境を整えること。そして、2つ目はお二人が提案する住宅機能のひとつのテーマ「心地よい温熱環境」を自ら実践し体感できる場所をつくること。そのため、メインルームはスケルトンにしてほぼ一から改装を施した。
玄関回りもすっきり。枕木とレンガが敷き詰められたアプローチに期待感が膨らみます。今ではこのアプローチを見てご近所さんが「何屋さんですか?」と尋ねに来ることも。 北欧テイストにアレンジされた玄関も可愛らしくて雰囲気がいい。 ホワイトカラーに木の素材感、照明や家具。どれもが心地よく調和しています。 天井の高さや大きな窓面も気持ちのいいポイント。お二人自らも塗装したりしたそうです。 正直、原形がハッキリと思い出せないほどの変わりようにびっくり。せっかくの窓の多さや風の通り道を邪魔していた細切れの間取りがすっきりとなり、爽やかに生まれ変わった。
この事例には、住宅街にオフィスを作ってしまったという新しさの他にも魅力的な要素が詰まっていた。古いものを簡単に壊していくのではなく、新しい価値を見出し現代に残していくということ。産廃を減らすこともできるし、新築を建てるよりも資材を使う量を減らし、自然環境への配慮の意味もある。また、大家さんにとっては、現状復帰前の状態で貸した物件を入居者がバリューアップしてくれるという貸し方でもあった。そして入居者は、やりたかったことを実践し望んでいた空間を手に入れることができた。今までの貸し方、借り方の視点を変える理想的なモデルのひとつとなったように思います。