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2011.12.31

【番外編】アメリカ・ユタ州発、学生の手で作る住宅の話

本田雄一(福岡R不動産/DMX)
 

唐突な話だが、僕は今アメリカ西海岸に3ヶ月ほど滞在している。サンフランシスコを拠点に、ちょっとしたクールダウンの時間を過ごしているのだが、その期間を利用して、友人が独立してデザイン事務所をやっているユタ州パークシティを訪ね、アメリカの面白いプロジェクトについて話を聞いてきた。

アメリカでデザイナーとして働く

まずは、そのデザイン事務所について。2人の日本人により1年ほど前に設立された「double dot design」という会社だ。Atsushi Yamamotoさんは理系の大学を卒業してシステムエンジニアとして働いたのちに建築家への道に転向し、ユタ大学建築学科大学院を卒業した風変わりな経歴。Hiroko Ogisoさんは建築学科で勉強し職人への道を目指していたが、先輩のススメで不動産デベロッパーに就職し、大型プロジェクトの施工監理(社内初の女性現場監督だった!)等を経て、アメリカに渡ったというこちらも個性的なキャリア。

2人はdouble dot designでの仕事に加え、NPO法人DesignBuildBLUFF(デザインビルドブラフ)のメンバーとして、住宅の設計から施工までをすべて学生が行う教育プログラムを運営している。

DesignBuildBLUFFとは

先に書いた通り、アメリカの建築学科の大学院生が設計から施工まで行う授業なのだが、このプログラムがとても先進的だったので、紹介してみたい。


なんと、基礎から全部作るらしい。

プロジェクトの特徴は大きく4つある。

1. 学生が設計し、施工する

机上の空論ではなく、学生が自分のプランを実際に施工まですることにより、多くのことを学ぶことができる。3ヶ月を設計、もう3ヶ月を施工の期間とした大学の一授業である。ちなみに、1チームは8〜12名程度で、年間4棟を目標としている。学生ならではの既成概念を超えた発想を、実際に形にすることができる。

2. クライアントに住宅を無償で提供する

クライアントはネイティブアメリカンであり、現代的な住宅を持たない貧困層である。学生はクライアントのニーズを聞いた上で設計し、施工した住宅は無償で譲渡される。つまり、社会貢献の側面を持っているのだ。大学、学生、クライアントと関わる人すべてにwin-winのプログラムである。

3. NPO法人が寄付を活用しプログラムを運営する


寄付された電柱

このプログラムはDesignBuildBLUFFというNPOにより提供されている。クライアントには完成した住宅を無償で提供するため、個人及び企業から寄付や建築資材の提供を受けながら、非常に少ない予算の中で作っていく。(実際にかかるコストは1棟600万円くらいで、うち半分くらいは寄付や資材提供に頼っているらしい)学生は予算管理も行い、資材の提供を企業に交渉して回ったり、自作したりと工夫を凝らす必要がある。

4. Bluff(ブラフ)という場所

建築する場所はBluffというナバホ族(ネイティブアメリカン)の居留地であり、簡単に言うと、なにもない場所である。パークシティからは車で6時間、見渡す限り地平線だ。案件によっては水道や電気のインフラもない場合もある。学生は、雨水を集めたり、夏の灼熱と冬の極寒に対応でき、かつローコストメンテナンスの実現可能なデザインを考えなければならない。しかし、普通のエリアではデザインに関して制約が多い中、なんとこの居留地では建築基準法がないのだ。つまり、どんな家を建てても自由、申請も不要、途中でいくらでも設計変更をできる。これは法で縛られた世界で考えていては出てこないようなアイデアやタブーも試しにやってみることができ、新たな発見にもつながる。

僕も一応建築学科を卒業したので、学生のうちにアイデアを形にできることの素晴らしさやそこから学ぶことの多さにはとても共感する。

実際のプロジェクトの事例を見せてもらった。

Case1:White Horse

寄付された電柱を柱にして、床を持ち上げた住宅。ナバホの大地ではもちろん舗装はされていないので、砂埃がひどく、その対策として床を上げた設計に。結果として、室内はクリーンに保たれている。仕上げも廃材として寄付されたトタン波板、アルミ板、荷物運搬のパレットに手を加えてデザインされている。

Case2:Skow House

ネイティブアメリカンSkow一家が自宅の建設を自力で行っていたものの、途中で断念し放置されていた現場をDesignbuildBLUFFが引き継いだ。基礎は終了しており、また主構造の素材がすでに用意されていた。さらに既存で準備されていた屋根材のトラスをひっくり返して使うという斬新なアイデアが採用されている。(上記写真の屋根。よく見るとひっくり返ってる。)

面白い!このプロジェクト、僕は一気に好きになりました。さっそくAtsushiさんに突っ込んでインタビュー。

----学生にとってはどんなメリットがあるのですか?

「即戦力になる知識が身に付きます。また、チームで設計から施工までしていくので、決めごとをしていく流れや組織運営の勉強にもなります。NPOのメンバー以外にも、職人や構造・設備設計事務所などのプロの人たちも無償でサポートしてくれるので、この辺りも机上の学習とは一線を画しています。1分の1の模型を作るようなプロジェクトですね。」

図面ばかり書かされて悶々としている若者は多いはず。日本でもこんなプログラムができないか密かに企んでしまう。

----具体的にどんな工夫が生まれているのでしょうか?

「例えば寄付でいうと、昔使っていた木の電柱をもらってきて柱として利用したり、高速道路の木フェンスを外壁に使ったり、中古のコンテナをひっくり返して使ったり(元々床下だった部分がひっくり返すと天井裏の照明スペースになる)。学生が企業に電話をかけまくって資材を入手します。また、ブラフはインフラ環境が乏しいので、効率的な温熱設備を構築するための工夫もしています。冬だけ日が差す壁を蓄熱できる素材にしたり、ロケットストーブという廃材のドラム缶を利用した暖房を使ったり。」

パクらせてもらいたいアイデアが満載(笑)続いて、デザイン事務所(double dot design)での仕事について聞いてみました。

----アメリカで起業するに至った経緯を教えてください。

「他の業界(SE)で働き、年齢を重ねてから建築への道に転身したので、日本よりアメリカの方が勝負できる環境があると思い、アメリカの大学院に進みました。卒業後はNPO(DesignBuildBLUFF)でのみ働いていましたが、昨年自分たちの会社を設立し、現在は二足のわらじで仕事をしています。」

----デザイン事務所での仕事はどのようなことをされていますか?

「あらゆるもののデザインをしています。建築、プロダクト、WEBなど形にこだわらず。自分はプログラマー出身なので、WEBの仕事が比較的多いです。」

コードがかける建築家ってカッコいいですね。僕もプログラム勉強中なのですが、建築とWEBサイトやシステムの構築って工程が似てる気がします。

----今後はどんな活動をしていく予定でしょうか?

「デザインを主軸に置いて、人間の所得ピラミッドのトップとボトムをターゲットにしていきたいです。トップ(富裕層)では大きな仕事、稼ぐ仕事を、ボトム(貧困層)には社会貢献、経済が不安定なときでも必要とされる仕事を提供していきたいと思っています。」

----最後に、住んでいるパークシティの生活を教えてください。

「ソルトレイクオリンピックでも会場になったスキー場がある小さな町です。リゾート地なので賃料は高いですが、富裕層が多く、美術館やギャラリーが充実していて、寄付パーティが盛んな文化的な町で気に入っています。」


自宅はかわいらしいログハウス風の家。

----じゃ、滑りいきましょうか!


自宅から徒歩5分でスキー場のリフト乗り場という最高の環境。

というわけで、最後は勢い余って遊んでしまったが、建築の仕事に関わっている僕にとってはとても衝撃的な訪問だった。DesignBuildBLUFFには、家を建てる際のヒントがいっぱい詰まっている。日本では建築基準法や地震対策などハードルは多いものの、寄付や再利用のカルチャーで家づくりはもっと多様になるし、面白くなるのではないだろうか。

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このブログについて

海も川も緑も、そして街も空港も、なんだってすぐそこにある福岡。東京から移住して、気づけばその魅力を満喫すべく、会社を立ち上げたり、倉庫のような物件を改装してオフィスにしたり、果てには芥屋の海沿いに土地を買ってしまったり。徐々に増えていく福岡R不動産のメンバーとともに、この街の魅力を再発見する日々を綴ります。
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著者紹介

本田雄一
長谷川繁
坂田賢治
松尾隆文

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